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その24 学生の自己確立について
青年の自己確立に至る過程は、四タイプに分けることが出来ます。
(1)同一性達成・・・然るべき選択の機会を経ての達成。
選択の危機:経験した。自己確立:している。
幼児期からの在り方について確信がなくなり、いくつかの可能性について本
気で考えた末、自分自身の解決に達し、それにもとずいて行動している。
(2)モラトリアム・・・選択の迷いのただ中にいる。
選択の危機:その最中。自己確立:しようとしている。
いくつかの選択肢について迷っているところで、その不確かさを克服しよう
と懸命に努力している。
(3)早期完了・・・与えられた唯一の道を受け入れて、早々と進む道を決めてし
まっている。
選択の危機:経験していない。自己確立:している。
自分の目標と親の目標の間に不協和がない。どんな体験も、幼児期以来の信
念を補強するだけになっている。硬さ(融通のきかなさ)が特徴的。
(4)同一性拡散・・・自分らしさを見出せずに、混沌の中で動きがとれなくなっ
ている混乱状態。これはさらに、二タイプに分けることが出来る。
○危機前 選択の危機:経験していない。自己確立:していない。
今まで本当に何者かであった経験がないので、何者かである自分を想像する
こと不可能。
○危機後 選択の危機:経験した。自己確立:していない。
全てのことが可能だし、可能なままにしておかなければならない。
「早期完了」群のタイプの青年は、自分自身についての評価が動揺し易く、特に他
者からのキヨ褒貶によって、自分をあるときは実際以上に高く、他のときは低くと
いうふうに良くも悪くも影響を強く受けるところがあるといいます。この辺りが俗
にいう二代目の弱さでしょう。とりわけ、権威に弱く、自分の判断で事を決めるよ
りは、その世界での権威者の判断をあおぎたがり、それを鵜呑みにする傾向がある
ことが見出されます。これらは自ら悩んで自分の道を切り開いた経験がない、他律
的順応的なタイプの弱さとしてよく理解できるところです。要するに彼らは、いわ
ゆる優等生タイプの一典型であり、廻りからの期待に応えるべくししとして努力す
る学生です。感情を自由に表現できる伸びやかさもこのタイプの人々にどこか欠け
ている性質の一つでもあります。これと対照的に、モラトリアム学生の方は、敏感
で不安も強く、だが自律的であり、自分の人生に対しての責任を引き受ける態度を、
はっきりと持っている者が多いようです。自己を確立した達成群も、自律的で感受
性を押えている点はモラトリアム群と共通ですが、こちらの方はより安定し、ゆと
りがあったのは、けだし当然でしょう。混乱群の方は、物事を見る目に中心がなく、
また不安が強いために、極言すると、対象のあらゆる物質、あらゆる面に気が行っ
てしまって適当に取捨選択を行なう能力が妨げられていると考えられます。「達成」
と「モラトリアム」の両群は共に中程度の認知文化度でした。達成群の方には、人
間の尊厳、人間愛あるいは信仰の尊重といったヒューマニステイックな理念を職業
を通して実現したいと考えている者がかなりいました。他方、早期完了群には、こ
うした傾向を示すものは皆無でした。この群に目立ったものは、広く浅い交友関係
を大事に思っているものが多いことであり、この点の方から見ると、むしろモラト
リアム群と全く対照的でした。モラトリアム群では、そのほとんどがもっぱら価値
観そのものを模索追求しており、交友よりも何よりもまず、いかに生くべきかに関
心が集中しています。ここ十年ぐらい前から高校生、大学生の間で、物事をあまり
突き詰めて考えるよりも、友人とのその場その場での当たり障りのない交流を楽し
んでいれば良い、といった風潮が次第に広がってきたと言われますが、この知見は
まさにそれを裏書しているようにも思えます。試みにこれらのことを図式的に示す
と以下のようになります。
−−−
|
選択の危機
|
自己確立
|
同一性達成
|
経験した
|
している
|
モラトリアム
|
その最中
|
しようとしている
|
早期完了
|
経験していない
|
している
|
同一性拡散(危機前)
|
経験していない
|
していない
|
〃 (危機後)
|
経験した
|
していない
|
図1
大 |
↑ | C
認 | A:達成群
知 | F:早期完了群
の | M:モラトリアム群
複 | A M C:混乱群
雑 |
度 |
↓ |
小 | F
----------------------------------
小 ← 不安の強さ → 大
図2
ーーー
|
ヒューマニズム
|
自己実現
|
価値観追求
|
対人関係
|
A. 達成
|
◎
|
◎
|
○
|
○
|
M. モラトリアム
|
×
|
×
|
◎
|
×
|
F. 早期完了
|
×
|
○
|
○
|
◎
|
図3
抜粋:「キャンパスの症状群」 弘文堂 1300円 山田 和夫 著
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