バナー広告主募集中!!
(デサイン持込可。450*60ピクセル)
詳しくは、こちらまで。
当世時事辛口批評26
(2006年1月〜2021年3月末)
●
『旧約聖書』
【創世記】
1.
「光あれ。」
と、神は言った。
すると、
瞬く間に、光が満ちた。
そして、神は空と大地をつくり、
ありとあらゆる生命体を造り出した。
だが、
神はそれでも、満足しなかった。
それで神は、
自分と同じ姿を持つ動物を、
土から造りだし、
”アダム” と ”イブ” と名付け、
こう言った。
「産めよ、増えよ、地に満ちよ。
そして、この地の万物を従わせ、
全ての生き物を支配せよ。」
神は二人を祝福し、
”エデンの園” に住まわせた。
そこは苦しみも哀しみも無い、
永遠の命があるという、楽園だった。
そして神は最後に、
強く、念を押して、こう言った。
「この園にある、
全ての樹の実を取って、食べよ。
ただし、”知恵の樹の実” だけは、食べてはならない。」 と。
2.
アダムとイブは、
互いに相手を尊敬し合い、
実り溢れる樹の実を食べて、
何不自由無く、
裸で暮らしていた。
ある日、
イブが散歩をしていると、
知恵の樹の実に、
美味しそうな赤い実が、
実っているのに気が付いた。
イブは言った。
「何て、美味しそうな樹の実でしょう。」
そこへ蛇がやって来て、
彼女に、そっと、こう言った。
「さあ、一口、食べてごらん。
それで、あなたは、
神様と同じ知恵を持つ事が出来るのですよ。」
イブは、余りの甘い香りに耐えきれず、
遂にその実を食べてしまった。
そして、その実を家に持ち帰り、
アダムにも一口、食べさせた。
こうして二人は、
神と同じくらいの知恵を、
瞬く間に、身に付けてしまった。
3.
それを知った神は激怒して、
次の様に、二人に言った。
「女よ。
お前の孕(はら)みの苦しみは、大きくなる。
なぜなら、お前が男を誘惑したからだ。
男よ。
お前のせいで、土は呪われた。
お前は生涯、食べ物を得ようと苦しむ。
土から生まれたに過ぎないお前は、土に還る。
なぜなら、私がお前に、寿命を与えたからだ。」
こうして、二人は、
エデンの東にあるという、
棘(いばら)の地へと、追放された。
4.
エデンの東に追放された二人は、
日々の食べ物を得る為に、
”労働” という、苦しみを味あわなければならなかった。
そして、二人は、
その苦しみから逃れる為に、
或いは、刹那(せつな)の快楽を得る為に、
互いの体を貪(むさぼ)り合った。
すると今まで裸であった二人の中に、
”恥ずかしい” という感情が、芽生え始め、
体の一部を隠すため、
衣服を身に付ける様になった。
やがてイブは、
アダムの子を身籠もり、
”カイン” と ”アベル” という、二人の男の子を産んだ。
5.
兄のカインは、土を耕す者となり、
弟のアベルは、羊を飼う者となった。
神を祝福する為に、
カインは土の実りの残り物を主に捧げ、
アベルは最良の子羊を屠って主に捧げた。
しかし神は、
弟のアベルの供物には目を留めたが、
兄のカインの捧げ物には、顧みなかった。
カインは顔を地に伏せて、
激しく憤(いきどお)って、慟哭(どうこく)した。
そこで、神は、
カインに向かって、こう言った。
「なぜ、お前は憤り、地に伏せる?
お前が正しい事をしたならば、顔を上げよ。
それらは必ず、受け入れられる。
だが、お前が正しい行いをしていないならば、
悪意は戸口で待ち伏せして、常に、お前を待っている。
お前はそれを、自分自身で、律しなければならない。
罪を支配しなければならないのだ。」
しかし、
神の忠告にも関わらず、
カインはアベルを野に誘い出し、
これを襲って、殺してしまった。
神は怒って、カインに言った。
「お前は、一体、
何という事をしたのか!
聞け。カインよ。
お前の弟の血が、流れた地から、私に叫んでいる。
お前は、今や、その土地から呪われた。
お前が流した弟の血を飲み込んだ土よりもなお、
お前は呪われる。
そう。
もはや、お前がその土地を耕しても、
土がお前に実りを与える事は無いだろう。
お前は実りを求めて彷徨(さまよ)い歩く、
永遠のさすらい人となるのだ。」
こうして、我々人間は、
罪人の血を引き継ぐ、”カインの末裔(まつえい)” となったのである。
**********************
6.
それでも、神は、
カインを見捨てることを、
しなかった。
神は再び、女を造り、
これをカインに分け与えた。
やがてカインの子孫は増えて行き、
みるみる地上に、散っていった。
しかし、
時が経つに連れて人々は、
神の言葉を次第に忘れ、
己の欲望のままに生活し、
堕落や不法を行った。
神は人を造ったことを、
後悔し、
これを滅ぼす事を、
心に決めた。
「よし。
大洪水を起こして、
全てのものを消し去ろう。
ただし、
私の言葉を信じる者を除いては。」
7.
ここに ”ノア” という、
心の正しい人がいた。
神はノアに語りかけた。
「ノアよ・・・。
ノアよ・・・。
私の声が聞こえるか・・・?
私はお前が、
正しい者であることを知っている。
お前は箱船を木で造り、
家族と供に入りなさい。
また、全ての生き物を、
一つがいずつ箱船の中に、入れなさい。」
そして、神の言葉通り、
大洪水が発生し、
箱船に乗っていた、ノアとその家族以外は、
全て、いなくなってしまった。
神はノアに、優しく言った。
「私は、お前が、
清い者である事を、知っている。
もはや、私が、
二度とこの地を、呪うことは無いだろう。
お前とお前の家族がいる限り、
種まきと刈り入れ、寒さと暑さ、夏と冬、
昼と夜が止むことはないだろう。
私はその約束の印に虹を立てる。
お前がその虹を見る時に、
お前は私との約束を、心から思い出すに違いない。」
ノアが箱船から出てみると、
空には、それはそれは美しい、大きな虹が、掛かっていた。
8.
しかし、人は、
同じ過ちを、辞めることをしなかった。
ノアの子孫が増えて行き、
地を覆うようになった時、
世界中の人々は、
同じ言語を、持っていた。
やがて東の方にいた人々が、
シヌアルの地に平地を見つけ、
そこに住み着き、こう言った。
「さあ、
煉瓦(れんが)を練って、よく焼こう。
そして、頂(いただき)が天に届く塔を建て、
我々の名を、知らしめよう。
なぜなら、我々は、
神に近づき、神を超えることも出来るのだから。」
神は激怒し、
落雷でその塔を打ち壊し、
彼らに向かって、こう言った。
「何ということだ。
人間がこのような愚かな行いをするわけは、
同じ言葉で話し合い、
つまらぬ知恵を寄せ合うからだ。
よし、彼らが同じ言葉を話さぬように、
下らぬ企てをせぬように、
彼らの言葉を混乱させ、
話しが出来ぬようにしてやろう。」
こうして、人々は、
互いに違う言語で話し合い、
意思を通じ合わせる事が、出来なくなった。
それ故、人々は、この塔を、
”バベル(=混乱)の塔” と呼んだ。
**********************
9.
それから長い年月が経った。
ユーフラテス川沿いある、
カルディア地方のウルという町に、
”アブラム” という、羊飼いの男がいた。
アブラムは非常に働き者で、
たくさんの羊や、召使いを連れていた。
また、アブラムの妻のサライは、
大変、顔・かたちが美しく、
誰もが認める美人だったが、
この娘は、子供を産めない、不妊の女で、
二人の間には、
長い間、子供がいなかった。
ある時、主が現れ、こう言った。
「アブラムよ。
お前はお前の生まれた地、
お前の父の家を出て、
私の指し示す地へ行きなさい。
そうすれば、私はお前を祝福し、
お前の家族は、大いなる名を持つようになるだろう。」
そこでアブラムは、
甥のロトを引き連れて、
主の指し示す ”カナン” の地へと、旅立った。
旅の途中、
アブラムの一行が、エジプトの地へ立ち寄ると、
通りすがりの旅人達が、
口を揃えて、こう言った。
「ああ、あなたの妻は、
何と、美しいことだろう。
恐らく、エジプトの王様は、
あなたの妻を得るために、
あなたを、殺してしまうでしょう。」
そこでアブラムは、
妻のサライを自分の妹だと偽って、
町の中へと、入っていった。
10.
やがて、サライの美しさは町中の間に知れ渡り、
それらの噂は、王の耳にも入っていった。
それで王様は、アブラムの天幕に使いをよこし、
サライを自分の城に向かい入れた。
王は、大変に喜んで、サライを迎え、
アブラムに、沢山の羊や召使いを、分け与えた。
そのため、アブラムは、
その地で、最も多くの羊を飼う者となった。
ちょうど、その日からのことである。
城の中に、謎の熱病が発生し、
王や使いの者を苦しめた。
そこで王は、占い師に、
それらの理由を聞いてみた。
占い師は言った。
「王様。
それは、あなたが、人の妻を奪ったからです。
サライはアブラムの妹ではありません。
彼の妻です。
サライをアブラムの元に返せば、
この熱病も収まるしょう。」
王はこれに、激怒して、
サライをアブラムの元に突き返し、
アブラムの一行を、
エジプトの町から、追い出してしまった。
アブラムは、ほんの僅かな財産に目が眩(くら)み、
妻を手放したことを深く恥じ、
心の底から、妻のサライに謝罪した。
11.
アブラムがエジプトの町を出て、
ベテルに立ち寄った時のことである。
アブラムとロトの持つ羊が、
あまりに多くなったため、
その所有をめぐって、
アブラムとロトの家族の間で、
醜い争い事が起こってしまった。
そこでアブラムは、
甥のロトを伴って、
天幕の近くの小高い山に登って行った。
「ロトよ。
我々が余りに多くの羊を飼ったため、
お前の羊飼いと私の羊飼いとの間で、
諍(いさか)い事が起きている。
我々は親類同士なのだから、
互いに喧嘩をせぬように、
ここで二つに、分かれるとしよう。
そこでロトよ。
お前はお前の、行きたい道に進みなさい。
もしも、お前が左の道を進むなら、
私は右の道を進むとしよう。
もしも、お前が右の道を進むなら、
私は左の道を進むとしよう。」
そこで、ロトは、
見渡す限り、美しい木々の潤う、
東のヨルダン一帯を進んでいった。
アブラムは一人、丘に立ち、
残された西の荒れ地を見ていると、
言いようのない、行く末の不安がこみ上げて来た。
その時、主が現れ、こう言った。
「アブラムよ。
アブラムよ。
なにも心配する必要はない。
お前がいる場所の、
北、南、西、東、
遙か遠くまで、見るがいい。
お前が見渡す遠くの地まで、
思うがままに、進みなさい。
私はお前が進んだ土地を、
お前とお前の子孫に与えよう。
やがてお前の子孫の数は、
夜空に瞬(またた)く星のように、
地に這う無数のちりのように、
地上に広がっていくだろう。
なぜなら、わたしが、この土地を、
お前の家族に与えたのだから。」
**********************
12.
ここヨルダンの地にある、
ソドムとゴモラは、
大変、豊かな国であり、
それを手にいれようと、
多くの国が狙っていた。
ある日、
メソポタミアの連合軍が、
突然、この国に攻め入って、
この国の女や、ロトの召使いを、
連れ去ってしまった。
それを聞いたアブラムは、
直ぐに追っ手を迎えにやって、
ロトと一緒に、
全ての財産と、捕虜となった人々を、
取り戻した。
しかし、
ソドムとゴモラの人々は、
大変、強欲な人々だった。
彼らはロトの恩にも関わらず、
ロトを捕らえて乱暴した。
なぜなら、ロトが、
その地の、よそ者だったからである。
そこで、アブラムに主が言った。
「ソドムとゴモラの叫びは非常に大きく、
彼らの罪は極めて重い。
私はその地へ下っていって、
彼らの町を滅ぼそう。」
アブラムは言った。
「もし、
その町に50人の正しい者がいたならば、
あなたは町を滅ぼしますか?」
「いや、
その町に50人の正しい者がいたならば、
私は町を滅ぼすまい。」
「ではもし、
その町に10人の正しい者がいたならば、
あなたは町を滅ぼしますか?」
「いや、
その町に10人の正しい者がいたならば、
私は町を滅ぼすまい。」
「ではもし、
その町に1人でも正しい者がいたならば、
あなたは町を滅ぼしますか?」
「いや、
その町に1人でも正しい者がいたならば、
私は町を滅ぼすまい。」
しかし、ゴモラとソドムの人々は、
大変、頑(かたく)な人々で、
決して神の言葉を、
聞き入れようとはしなかった。
主は言った。
「ロトよ。
ソドムとゴモラから、逃げなさい。
決して振り返ってはならない。
この低地のどこででも、立ち止まってはならない。
さもないと、お前自身が滅ぼされてしまうから。」
そして、主はソドムとゴモラに、
硫黄の火を、天から降らせ、
二つの町を滅ぼしてしまった。
ロトの家族が、ソドムとゴモラから逃げる時、
ロトの妻が、後ろを振り返ってしまった。
すると彼女は、直ぐに塩の柱になってしまった。
ロトが低地を見渡すと、
まるで釜戸の煙のように、
その地に、煙が立ち上っていた。
そうこうするうち、
ロトの二人の娘が言った。
「私達のところにくる男は、もういません。
父に酒を飲ませて、共に寝て、
私達の子孫を残しましょう。」
こうして二人は、ロトの子供を身籠もった。
13.
アブラムが九十九歳になった時、
主がアブラムに現れ、こう言った。
「私は全能の神である。
わたしはわたしの契約を、
お前との間に立てる。
お前は数限りない民の父となり、
多くの国民の義とされる。
故にお前はこれからは、
”アブラハム”(人々の父(※注1))と名乗りなさい。
そしてお前の妻は、
”サラ”(多くの人々の王妃)と名乗りなさい。
私はお前に、お前の跡継ぎを与えよう。
やがてお前の子孫は、星の数ほど増えて行き、
その中から、一人の王が現れるだろう。」
(※注1)
英語読みで、”エイブラムズ”。
アメリカの主力戦車、エイブラムズA1は、
この名からとったもの。
アブラハムの妻、サラは、
彼に子供を産まなかった。
サラには ”ハガル” という、
若い召し使いがいたのだが、
この娘は、大変、心の優しい娘で、
よくサラに仕えていた。
それでサラはアブラハムに、
ハガルを二人目の妻としてめとり、
彼女に跡継ぎを産ませるように、
申し出た。
やがてハガルはアブラハムの子を身籠もり、
イシュマエルという男の子を産んだ。
イシュマエルを産んだハガルは、
アブラハムの愛情を受けるうち、
すっかり幸せに酔いしれて、
サラのことを見下すようになってしまった。
それでサラは、
ハガルを二人目の妻としてアブラハムに薦めたことを後悔し、
毎日、涙を流して苦しんだ。
14.
ところが、
思いがけないことが起こった。
もう子供は出来ないと、
諦め掛かけていたサラが身籠もって、
元気な男の子を産んだのである。
アブラハムはその子を ”イサク” と名付け、
イシュマエルと同じように、
愛情を注いで、かわいがった。
イサクとイシュマエルは、
大変、仲の良い、兄弟だったが、
ちょっとでも二人が喧嘩をすると、
サラとハガルは、
自分の息子こそが、正当の跡継ぎだと言い張って、
激しい罵(ののし)り合いを始めてしまった。
ある日、
イシュマエルがイサクをからかっているのを、
サラが見つけ、
それを咎(とが)めて、
アブラハムにこう言った。
「どうか、あの召使いの女を、
その子と共に、追い出して下さい。
なぜなら、その子は、
あなたの跡取りになるべきではないのですから。」
それで、アブラハムは仕方なく、
ハガルとイシュマエルに、
僅かな食料と、水の入った革袋を与え、
翌朝、二人を送り出してしまった。
二人は熱い日差しの照り付ける、
荒野の中を彷徨(さまよ)い歩き、
やがて、革袋の水も底を尽き、
喉の渇きで、
次第にイシュマエルは弱っていった。
ハガルはその子を、
一本の木の木陰の下に置き、
自分はそれより、
少し離れた岩のくぼみに身を置いた。
なぜなら、
自分の子供が苦しんで死んでいくその様を、
自分の目で見たくなかったからである。
そして、彼女は、声を上げて泣いた。
**********************
15.
暑い日差しに照り付けられて、
ハガルの意識も、
次第に朦朧(もうろう)としていった。
その時だった。
ハガルに主が現れ、こう言った。
「ハガルよ。
ハガルよ。
どうして、お前は、泣いている?
さあ、立ちなさい。
立って子供のもとへ行き、
お前の子供を励ましなさい。
なぜなら私が、
あの子を大いなる国民にするからだ。
お前のいる場所の直ぐ近くに、
古い井戸があるはずだ。
その水を汲んできて、お前の子供に飲ませなさい。」
それでハガルは、
行って革袋に水を満たし、
イシュマエルに飲ませた。
やがてイシュマエルは、
荒野で、弓を射る者となり、
逞しい青年へと成長していった。
16.
アブラハムが天幕にいると、
主が現れ、こう行った。
「アブラハムよ。
お前の愛するイサクを連れて、
モリヤの山の頂(いただき)に登り、
彼を私の生贄(いけにえ)として捧げなさい。」
アブラハムは驚き、
声を震わせ聞き入った。
彼の子孫を祝福し、星の数ほど増やすといったあの言葉は、
嘘だったのだろうか?
アブラハムは一晩中、悩み苦しみ、
そして山に登る決心をした。
なぜなら、神の言葉は、絶対だからである。
アブラハムは、
はん祭のための薪(たきぎ)をイサクに背負わせ、
自らは火と刀を両手に持って、
二人で山を登っていった。
「父さん。」
イサクは言った。
「火と薪はありますが、
生贄の羊は、どこにいるのですか?」
「それは・・・
神様御自身が、生贄の羊を備えて下さるのだよ・・・」
アブラハムは言った。
こうして二人は、いっしょに歩き続けた。
やがて、二人が山の頂に到着し、祭壇を築き、
アブラハムがイサクを屠(ほふ)ろうと、
手にした刀を、
まさに振り下ろそうとした、その瞬間、
主が現れて、こう言った。
「もう良い。
アブラハムよ。
その手を下してはならぬ。
お前が、
神を畏れる者であることが、
良く分った。
お前は、自分の愛する一人子でさへ、
私に捧げる事を惜しまない。
私はお前を祝福し、
お前の子孫を、星の数ほど増やすことを、約束しよう。
なぜなら、お前が、私に従ったからである。」
やがて、
アブラハムとサラの子孫はどんどん増えて、
多くの種族に別れて、満ち栄えた。
サラが死んだ時、その歳は百二十七歳であり、
アブラハムも長寿を全うして、
百七十五歳で、静かに息を引き取った。
二人の息子のイサクとイシュマエルは、
二人をマクベラの洞穴に、
丁重に埋葬したと、伝えられている。
**********************
17.
さて、
イサクには、
”エサウ” と ”ヤコブ” という、
二人の息子がいた。
神の予言した通り、
イサクが妻のリベカと巡り会い、
二人の子を産んだからである。
しかし、兄のエサウと弟のヤコブは、
折り合いが悪く、
ヤコブは一時、家族の元を離れ、
一人で旅を続けていた。
ある日、ヤコブが野宿をしていると、
奇妙な夢を見た。
一つの階段が地に立てられ、
その頂きは天にまで達している。
そしてその階段を、
天の御使い達が登り下りしているのだ。
そこへ主が、
ヤコブの傍らに現れ、こう言った。
「私はお前の叔父アブラハムと、
父イサクの神である。
私は今、
お前が横たわっている、この土地を、
全て、お前に、与えよう。
お前の子孫は、
地のチリのように増えて行き、
西、東、南、北へと広がって、
地上の全ての民族は、
お前とお前の子孫によって、祝福される。
私はお前と共にあり、
お前が何処に行こうとお前を守り、
お前を、この地に連れ戻す。
お前に約束したことを成し遂げるまで、
決して、お前を、見捨てはしない。」
眠りから覚めたヤコブは、
自分が枕にしていた石を取り、
それを石の柱として立て、
その上に油を注いだ。
ヤコブは言った。
「ここは神の家に他ならない。
天の門となるのだ。」
18.
また、
別の日のことである。
ヤコブが野宿をしていると、
一人の男が、
ヤコブの前に現れて、
ヤコブと夜明けまで、格闘した。
しかし、
その決着は、なかなか着かず、
次第に日が昇り始めた。
男は言った。
「もう、夜が明ける。
そろそろ、闘いを終わりにしよう。
そして、私をこの場から、去らせてくれ。」
ヤコブは言った。
「いいえ、
私は、あなたを、去らせません。
私を、祝福して下さるまでは。」
男は言った。
「よし。
では、お前はこれから、ヤコブでは無く、
”イスラエル”(=神と闘う人)と名乗りなさい。
なぜなら、お前は、神と闘って、勝ったのだから。」
19.
イスラエル(ヤコブ)は、
12人の息子と共に、
主の指し示した、カナンの地に住んでいた。
中でも、最後にめとった妻が産んだ、
末息子のヨセフは、
大変、顔・形が美しく、
その上、良く気の利く、
非常に物覚えの良い、賢い子だったので、
イスラエルは、
彼の息子たちの誰よりも、ヨセフを愛した。
しかもヨセフは、
夢占いに長けており、
将来、起こることを言い当てて、
度々、父のイスラエルを、驚かせた。
それでイスラエルは、
特別に長服を造って、彼に着せ、
ヨセフを溺愛したために、
腹違いの兄達はヨセフを憎み、
彼と穏やかに、
話しをする事が、出来なかった。
ある日、ヨセフは、
奇妙な夢を見た。
兄弟全員、畑で束(たば)をたばねていると、
ヨセフの束だけ、立ち上がり、
他の兄弟のたばねた束が、
ヨセフの束に、お辞儀をするのである。
また、別に見た夢は、こうだった。
太陽と月と、十一の星が、
ヨセフを伏し拝んでいるというものである。
それを聞いた兄達は、
ますます、ヨセフを憎むようになってしまった。
ある日、
兄たちは、シュケムで父の羊を飼う為に、
北のドタンへ、出掛けて行った。
それでイスラエルは、
ヨセフをドタンへ、使いにやった。
彼方に見えるヨセフを見つけ、
兄たちは口を揃えて、こう言った。
「さあ、今こそ、
ヨセフを、殺してしまおう。」
すると、長男のルベンは、こう言った。
「いや、
血を流すのは良くない。
それより、ヨセフを穴の中へ、投げ込んで、
飢え死にするのを、待つとしよう。」
それで兄たちはヨセフの長服を剥ぎ取って、
ヨセフを空井戸(からいど)の中へ、投げ込んだ。
ちょうど、その時、
エジプトへ向かう途中の、
らくだに乗った、ミデヤン人の商人が、やって来た。
それで、兄たちは言った。
「弟を殺したとて、
一体、何の益になろう。
さあ、
彼を商人に売り渡そう。
彼は我々の弟だから。」
それで兄たちは、
銀、二十枚と引き替えに、
ヨセフを商人に、売り渡した。
兄たちはヨセフの長服を切り裂いて、
雌やぎを屠って、その血を付けた。
それをドタン生まれの男に持たせ、
父のイスラエルに届けさせた。
父のイスラエルはそれを見て、
「ああ、私の息子は、
悪い獣に、噛み殺されたに違いない。」
と嘆き哀しみ、
悲嘆の中に、毎日を送った。
20.
さて、
ヨセフがエジプトへ連れ去られた時、
パロの廷臣の侍従長、ポティファルが、
ヨセフを、商人の手から、買い取った。
ポティファルは、ヨセフが、
大変、利口で、気だてが良いので、
彼を自分の側近の者とし、
家の全財産の管理を、全て、彼に任せた。
すると、ポティファルの家は、
ますます、財産が増えていった。
またヨセフは、
大変、容姿が美しく、
体格も良かったので、
ポティファルの妻は、
何度も彼に、言い寄った。
しかしヨセフは、
決して、それらを聞き入れず、
彼女の側に寝ることも、
一緒にいることも、しなかった。
ある日のこと、
ヨセフが仕事をしようと、
家の中に入ったところ、
使いの者は、誰一人としていなかった。
そこで彼女は、
ヨセフの上着を手で掴み、
「私と寝なさい。」
と、詰め寄った。
しかしヨセフは、
その上着を彼女の手の中に残し、
その場から、逃げ出してしまった。
彼女は、
使いの者を呼び集め、こう言った。
「ご覧。
あの男が私と寝ようと入って来たので、
私は大声を上げました。
それで、あの男は、
自分の上着を私に残し、
外へ逃げ出して行きました。」
それを聞いたポティファルは激怒し、
ヨセフを捕らえて、
王の囚人が監禁される牢獄に、
ヨセフを閉じ込めてしまった。
**********************
21.
無実の罪により、
牢屋に閉じ込められたヨセフであったが、
監獄の長は、囚人の管理をヨセフに任せ、
何も干渉しなかった。
ちょうどその頃、
パロ(=エジプト王)に仕えていた、
料理長と給仕長が王の怒りをかい、
ヨセフのいる同じ牢屋に入って来た。
その夜、二人は、奇妙な夢を見た。
まず、給仕長の見た夢はこうである。
見ると、一本のブドウの木が立っている。
それは見事なブドウの木で、
大きな三本の弦(つる)が伸びている。
それが芽を出し、花が咲き、
房(ふさ)が熟してブドウになった。
彼はその房を摘んでグラスに絞り、
王に捧げたというのである。
その話を聞いたヨセフは、答えて言った。
「三本の弦は三日のことです。
三日の内に、パロはあなたを呼び出して、
あなたを元の地位に戻すでしょう。
その時には、
私が無実の罪で、ここに閉じ込められている事を、
どうぞ、パロにお伝え下さい。」
次に、料理長の見た夢はこうである。
見ると、頭の上に、
三つの枝編のカゴを乗せている。
一番上のカゴには、
パロの為に作った、
あらゆる食べ物が入っていたが、
そこへ鳥が飛んできて、
中の食べ物を、全部、食べてしまったというのである。
ヨセフは、答えて言った。
「三つのカゴは、三日のことです。
三日の内に、パロはあなたを呼び出して、
あなたを木に吊してしまうでしょう。
その時、鳥が飛んできて、
あなたの体を、つばんで食べてしまうでしょう。」
それから三日経った。
その日は、ちょうどパロの誕生日で、
ヨセフの夢の解き明かした通り、
パロは給仕長を、もと居た場所に呼び戻し、
料理長を木に吊してしまった。
しかし給仕長は、余りの嬉しさに舞い上がり、
パロにヨセフのことを話すのを、
すっかり忘れてしまっていた。
**********************
22.
それから二年が過ぎたある日、
パロは不思議な夢を見た。
パロがナイル川のほとりに立っていると、
艶々(つやつや)とした、
肉付きの良い七頭の雌牛がやって来て、
葦(あし)の中で草を美味しそうにはんでいた。
すると、今度は、
痩せ細った、醜い七頭の雌牛がやって来て、
先にいた、七頭の雌牛を、
全て、食い尽くしてしまった。
それから、また眠って、
パロは再び、夢を見た。
見ると、
育ちの良い、一本の麦の茎から、
肥えた七つの穂が実っていた。
すると、今度は、
しなびた七つの穂が出て来て、
先に実っていた、七つの穂を、
全て、飲み込んでしまった。
パロは驚き、"ハッ" と目を覚ました。
パロは国中の占い師を呼び集め、
これらの夢の事を話したが、
それをパロに解き明かすことの出来る者はいなかった。
その時、給仕長は、牢屋での夢占いを思い出し、
パロにヨセフの事を、話してみた。
パロは使いをやってヨセフを呼んで、
それらの夢の出来事を尋ねてみた。
ヨセフは答えて言った。
「七頭の立派な雌牛は七年のことで、
七つの立派な穂も、七年のことです。
これらは、一つの夢なのです。
その後に見た、
七頭の痩せた雌牛は七年のことで、
しなびた七つの穂もそうなのです。
これは、飢饉(ききん)の七年です。
今直ぐ、エジプト全土に、
七年間の大豊作が訪れます。
それから、その後、
七年間の大飢饉が訪れます。
あまりに酷い、飢饉のために、
前の七年間が、豊作だったことを、
忘れてしまうほどの有様です。
そうなると、このエジプトの国も、
滅んでしまうことになるでしょう。
それを知った神様が、
前もって王様に、
お知らせになっているのだと思います。
七年間の豊作の間に、
出来るだけ穀物を蓄えて、
次にやって来る、
七年間の飢饉に備えておくのが良いでしょう。」
パロはヨセフに言った。
「お前ほどの知恵者がどこにいよう。
私に変わって、私の家を治めるがよい。
私の民はみな、お前の命令に従うだろう。
私はお前に、エジプト全土を支配させる。」
そしてパロは、
自分の指輪を外してヨセフに授け、
その首に金の首飾りを掛けて、こう言った。
「聞け。民よ。
私はパロだ。
私はこの者に、エジプト全土を支配させる。
誰も、この者の許し無しに、
手・足を挙げる事は許されず、
全ての民は、この者の前に、跪(ひざまず)く。」
パロはヨセフに、
ツァフェナラ・パネアハという名を与え、
オンの祭司の娘、アセテナという美しい娘を彼の妻に与えた。
こうしてヨセフの名は、エジプト全土に知れ渡った。
**********************
23.
さて、ヨセフの言葉通り、
エジプトに大豊作がやって来た。
ヨセフは国中を巡って麦を集め、
その食料を、各々の町に蓄えさせた。
余りに多く蓄えた為、
はかりで量りきれない程だった。
そして、見よ。
ヨセフの夢占いは、
またしても的中した。
いよいよ、七年間の、
大飢饉がやって来たのである。
その飢饉は全ての国に及んだが、
エジプト全土には、食料があった。
しかし、その食料も、
やがて底を尽き始め、
ヨセフは遂に、穀物庫を開け放ち、
それらを全ての民に分け与えた。
24.
ここカナンの地にある、
ヤコブ(=イスラエル)の家族も、
例外では無かった。
蓄えていた穀物が底を尽き、
大変、苦しい毎日を送っていたのである。
ヤコブは言った。
「息子達よ。
今、エジプトには、
充分な穀物があるという。
今から、そこへ下って行って、
私たちの為に、
穀物を買って来てくれないか。
そうすれば、私たちは飢え死にせずに、
なんとか、生き長らえることも出来るだろう。」
ヤコブは、
末子のベニヤミンだけを自分の下に残し、
他の10人の兄弟達を、エジプトに送り出した。
ベニヤミンは、
ヨセフと同じ母が産んだ、ヨセフの実の兄弟である。
一行がエジプトに到着すると、
彼ら同様、
多くの人々が、穀物の買い付けに、
この地を訪れていた。
この時、ヨセフは、
エジプトの統治を任されており、
穀物の売買も仕切っていた。
10人の兄弟達がヨセフの前にやって来て、
彼を伏し拝んだ時、
ヨセフは彼らが、
自分の兄弟達であることに、ふと、気付き、
思わず胸が、張り裂けそうになってしまった。
(私がかつて見た、
麦束や星の夢は、
このことだったのだ・・・。)
ヨセフは胸の高鳴りを必死で押さえ、
さも、見知らぬ者の様に振る舞いながら、
敢えて荒々しい言葉で、彼らに言った。
「その者達は、
どこから来たのか。」
「はい。
カナンの地から、食料を買いに参りました。」
「いや、そうではあるまい。
お前達は、この地を偵察に来た、間者(かんじゃ=スパイ)であろう。」
「いいえ。めっそうも御座いません。
私たちは、12人の兄弟で、
カナンの地にいる、一人の人の子で御座います。
末の弟は、今、父と一緒にいますが、
もう一人は、いなくなってしまいました。」
「よし。
では、そなたらの言っていることが本当かどうが、
試してやろう。
今すぐ、カナンの地へ立ち帰り、
そなたらの末の息子を、ここへ連れて来るが良い。
ただし、人質として、
お前達兄弟の内、一人をここに残しておけ。
もし、そなたらが末子を連れて戻らぬ時は、
この者の命は、無いと思え。」
こうしてヨセフは、
各々の革袋を麦で一杯に満たして、彼らに持たせ、
その袋の口に、こっそり、銀貨を忍ばせておいた。
カナンへの帰途についた一行は、
途中、天幕を張って、
ロバに麦を与えるために、
革袋を開けてみると、
見よ。
麦を買った銀貨が、
そのまま返されているではないか。
彼らは驚き、
身を震わせて、互いに言った。
「これは一体、どういう事だろう。
きっと我々が、
弟に酷い事をしたために、
その報いを受けているに違いない。」
そして、直ぐさまヤコブのもとへ、
知らせに帰った。
ヤコブはそれを聞いて、こう言った。
「お前達は、もう、
私に子を失わせている。
ヨセフはいなくなった。
シメオンも捕らわれている。
その上、
末のベニヤミンをも取ろうとしている。
なぜ、神様は、
このような苦しみを、私に背負わせるのか。」
それでヤコブは、
その地の名産品や、蜜や乳香、
麝香、没薬、くるみとアーモンド、
そして、二倍の銀貨と袋の口に返されていた銀貨を、
彼らに持たせ、
兄弟全員を、再び、エジプトへ送り出した。
25.
さて、
末子を連れて、
エジプトへ戻って来た一行を見て、
ヨセフは使いの者に、こう言った。
「彼らを私の家へ連れて行き、
食事の用意をしておきなさい。」
兄弟達は、ヨセフの家へ連れられて、
恐れおののき、こう言った。
「我々がここへ連れ込まれたのは、
袋に返されていた銀貨のことだ。
彼は、我々をおとしいれ、
無実の罪で、我々を捕らえるに違いない。」
そして兄弟は、地に伏せてヨセフを拝み、
持ってきた贈り物を、一つ残らず差し出した。
ヨセフは尋ねて、言った。
「そなたらの年老いた父は健在か?」
彼らは答えた。
「はい。
私たちの父は元気で、まだ生きております。」
また、ヨセフは、
同じ母の子であるベニヤミンを見て、
こう言った。
「この者が、そなたらの話した末の弟か。
人の子よ。そなたに、祝福があらんことを。」
ヨセフは彼らに、
美味しい食事を、充分とらせ、
取り分けベニヤミンには、5倍の量の食事を与えた。
そして、使いの者に命令し、
彼らの各々の革袋を麦で満たして銀を入れ、
ベニヤミンの袋にだけ、
特別に、
銀の杯を、その底に忍ばせておいた。
こうして兄弟達は、
大変、丁重にもてなされ、
再び、カナンへの帰路に着いたのである。
一行がカナンへ戻る途中、
兄弟達はヨセフのもてなしを不思議がり、
麦で満たされた手荷物を調べてみた。
すると再び、革袋の口に銀があり、
ベニヤミンの革袋の底からは、
貢ぎ物の5倍の価値はある、
立派な銀の杯(さかずき)が出て来た。
兄弟たちは驚いて、
口を揃えて、こう言った。
「あの方は、今度こそ、
我々を無実の罪で、捕らえてしまうに違いない。
今すぐ、エジプトに立ち返り、
この杯を返すとしよう。」
カナンへ送り出した一行が、
再びエジプトへ戻って来たこと知り、
ヨセフは激怒して、
彼らを呼び付けて、こう言った。
「どうしてお前たちは、
素直に革袋を持ち帰らないのか!!
それとも私がお前たちを陥れるために、
私が謀(はかりごと)をしているとでも言うのか!!
そなたらが、その様に人を疑うということは、
そなたらがかつて、
よこしまな行いをしたことがあるからではないのか!!
お前たちは、私が謀を企てる悪人だとでも言うのか!!
答えよ!!!
返答によっては容赦はせぬぞ!!!!」
「と、とんでも御座いません!!
私たちは、ただ、勘違いをしてしまっただけなのです!!
何とぞ、私たちのご無礼を、お許し下さい!!」
「いいや、もう、勘弁ならぬ。
今すぐ、革袋をもって、立ち返り、
お前たちの父親を、私のところへ連れてこい!!
ただし、人質として、
ベニヤミンだけは、残しておく。
もし、そなたらが父親を連れて戻らぬ時は、
この者の命は、無いと思え!!!」
これを聞いた一行は、
直ぐさま、カナンへ立ち帰り、
事の事情を、父のヤコブに伝えて言った。
ヤコブは天を扇いで、嘆いて言った。
「ああ、もはや私は、
これらの苦しみに耐えられない。
私はもう、生きていることさへ、辛い有様だ。」
そこへ主が現れ、こう言った。
「ヤコブよ。
ヤコブよ。
エジプトへ下ることを、恐れるな。
私は常に、お前といる。
お前がエジプトへ下った時、
私はお前を、
大いなる国民にするだろう。」
ヤコブはその言葉に励まされ、
家族全員を引き連れて、
エジプトの地へと、旅立っていった。
**********************
26.
さて、
いよいよヨセフの父が、
エジプトの地へやって来た。
ヨセフは、
恐れおののく彼らを諫(いさ)め、
それはそれは素晴らしい、
宮殿の一室に案内すると、
大変な、手間・暇を掛けて、
彼ら一行を、もてなした。
とりわけ、
父の元気そうな顔を目にすると、
ヨセフは、
懐かしさのあまり、
思わず、涙がこぼれそうになってしまった。
勿論、
人質として捕らわれていたベニヤミンも同席し、
決して、彼らが、
責められる事が無いことを説明すると、
今まで、
針のむしろの上にでもいたかのような兄弟達は、
ほっと、胸をなで下ろして、喜んだ。
そして、心の底から、
ヨセフが整えた酒宴を、愉しんだのである。
しかし、父のヨセフだけは、
一人、浮かない顔をしていた。
そこでヨセフは尋ねて言った。
「ご老体よ。
どうなされたか。」
「あ、いや、
これは大変な、
失礼をしてしまいました。
あなた様のような、高貴な方が、
このような野暮な田舎者に、
立派な宴を用意して頂き、
あまりの有難さに、
言葉に詰まってしまった次第です。
ただ、私には、
もう一人、末の息子がおりまして、
幼い時に、悪い獣に襲われて、
今は、もう、この世にはおりません。
もし、あの子が、今も生きていて、
ここに一緒にいたならば、
どんなに楽しい宴だろうと思うと、
思わず、涙が、
こぼれそうになってしまったのです。
何とぞ、この老人のご無礼を、
お許し下さい。」
ヨセフは答えて言った。
「ご老体よ。
その末の息子は、今でも生きておりますぞ。
しかも、このエジプトの地で、生きているのです!!」
「え?! それは本当で御座いましょうか!?
私の息子は、今、どこにいるのでしょうか?!!」
「あなたの直ぐ近くにいるではありませんか!!
しかも、あなたの、直ぐ、目の前に・・・・・!!」
「ひょっとして・・・?!
あなた様は・・・・?!!!」
「そうです!!
私があなたの息子、ヨセフです!!
お父さん!!
よくぞご無事で、この地へ参られました!!!」
「・・・・・・!!!!!!
ヨ・・・・・!!!!!
ヨセフ!!!!!!!!!」
「私は、あの時、
獣に襲われてはいませんでした。
砂漠の隊商に売り渡されて、
この地へ、連れ去られて来たのです。
これは飢饉で苦しむ私たち家族を助けるために、
全て、神様が仕組まれたことなのです!!
お父さん!!
これからは、この地で、家族一緒に、暮らしましょう!!!!」
そう言うと、ヨセフとヤコブは抱き合って、
大声を上げて、号泣した。
また、兄弟たちも、
心から自分たちのした事を、恥じ入って、
彼らと共に、声を上げて泣いた。
27.
パロは、
ヨセフの家族が、
エジプトに来たことを知って、
大変に喜び、
ラメセス地方の、
もっとも良い土地を、彼らに与えた。
また、
ヨセフも、王に代わって、
良くエジプトを治めたので、
ますます、国は栄えていった。
やがて、
ヤコブの寿命が近付き、
臨終が間近に迫っていた。
ヤコブはヨセフの二人の息子を、
自分のもとに呼び寄せ、
彼らの頭に手を置いて、
二人を、それぞれ、祝福した。
そして、祝福し終わると、
そのまま、静かに、息を引き取った。
この時、ヤコブは、百四十七歳であった。
それから間もなく、
ヨセフの息子にも、子供が生まれ、
ここで幸せに暮らしたと、伝えられている。
**********************
これで【創世記】は終了となります。
次は、いよいよモーセの登場する、【出エジプト記】です。
来月辺りから、書き始めるつもりです。
(演出上、多少、アレンジを加えたことを、ご了承下さい。)
戻る