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当世時事辛口批評11
(2000年3月〜2000年4月前半)






● 労働賃金を考える

普通、日本の会社では、若い時に安い給料で働いて、年と共に手取りが増えていくのが一般的である。これは若者が体が丈 夫で養う者が無いのに対し、年を取るとともに体が衰えていくのに反比例して経済的な負担が増えるからである。また年輩 方は経験豊かで思慮深いのに対し、若者に大金を持たせたら何に使うか分からない、といった良心的な配慮もあるだろう。 つまり年功序列の賃金体系は、世代間の年金制度の役割を担(にな)っていたわけである。学生が安いバイトで日夜過酷な 肉体労働に勤しんでいるのも、将来に於いても今の既存企業が確実に存在し、自分も大人になれば必ず管理職になれるとい う保証があったからで、” 石の上にも三年 ” という諺も、ここから生まれてきたものであろう。
しかし最近になって少々事情が違って来ている。というのも製造業から情報産業という世界的な業種転換の変遷で、この ” 石の上にも三年 ” という意義が薄らいで来ているからだ。なぜなら今の既存企業が将来必ずあるとは限らないし、情報 産業では年を取った後からも、十分働く事が出来るからである。世界経済に強く依存している日本に於いても、この業種転 換の波に乗り遅れる事無く、速やかに情報産業を育成する必要があるのだが、依然、年功序列の賃金体系の慣習は根強く、安 いバイト代で生計を立てながら、しこしこプログラム制作に勤しんでいるという若者は、案外多いのではないだろうか。
諸外国ではベンチャーキャピタル制度により、新規事業の育成がスムーズに進んでいるのだが、日本では自民党と銀行が結 託し、ゼネコンばかりに資金を流用するものだから、なかなかベンチャー企業が育たないのである。(※ 自民党は政治団体 というよりも、寧ろ銀行の出先機関ではないのかと、私自身は思っている。)
また若者は無分別だから安い給料で十分なのだ、と言う人もいるだろうが、しかし実際、世の中を広く見渡すと、部下の女性 社員にしつこくセクハラしてみたり、或いは社員総出でアジアに売春ツアーに出かけてみたりとか、これらの事件は全て高給 取りの管理職ばかりが引き起こしているではないか。これでは到底、” 年輩は思慮深いのだから、沢山の給料を貰うのは当 然だ。” とは言えないだろう。

私は以前、佐川急便の佐川 清 会長の事をボロクソに書いたが、彼のやった事で革新的な事は、いじめにいじめ抜かれて大人 になっていくという、今までの肉体労働に有りがちな暗い慣習を、ものの見事に打ち破った事である。つまり年功序列は関係 無い、働いた奴が給料を貰って何が悪い、と言わんばかりに、初任給から60万もの給料をバーンと支払ったのである。 人の2倍働いて、3倍の給料を持って行けと。
今その過渡期にあるのがパチンコ業界だろう。昔のパチンコの従業員といえば、ヤクザとかその筋のわけありの人とか結構多く、 義理と人情、目上の人には絶対服従、の職場の中で、若い時にいじめにいじめ抜かれて管理職になってる人が大半なのだ。パ チンコ店でバイトをしている学生さんの中には、
「俺は今まで真面目に勉強してきたし、何も悪い事などした事ないのに、どうしてそこまで厳しいのだろう。」
と思われる方もいるだろうが、彼ら自身も色々辛い思いをして来ているのだ。もう暫く我慢して頂きたい。
パチンコの話題が出てきたので、ついでにお話ししておくが、パチンコ店はなにもパチプロと勝負をする為に店を開いている のではないのだ。パチンコは知っての通り国家公認のギャンブルではあるが、あれは経済的な視点から見れば、個人の所有し ている停滞したお金を運用し、新規事業や公共事業費に充てる事で金の流れを良くして経済の活性化を図ろうとするものであ り、大半のお客はそれを十分わきまえた上で、投資目的の意味も込め、パチンコを楽しんでいるのである。
例え一人や二人のパチプロがいようとも、それはそれで他のお客の刺激になると思うからこそ、わざわざ大目に見ているだけ の話しであって、あなた方を完膚(かんぷ)なまでに叩き潰そうと思えば、幾らでも叩き潰す事は出来るのだ。変にギャンブ ラーを気取るのは止めた方がよろしいですぞ。店側もまさかあなた方の様なアホでバカな事をやらかす連中がいようとは、思 ってもいなかったのですから・・・。
( ※ まあ、大体パチンコなんつーもんは、人生に勝負を賭ける事の出来ない臆病者が夢中になったりするもんなんだな。 一般的に。)




● 諸例2
  某うどん店直営店舗群(前編)

(※ 本来この記事は、第2章の諸例2の位置に置くべきところ、辛口批評1 ”回転寿司ブーム” を御拝読されている事を前提とし て書いているので、ここに置かせて頂きました。それらの記事を読む事で、このトピックを理解する上で大いに役立つ事でしょう。)

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広島名物の特産物と言えば、皆さんは何を御想像されるだろう。お好み焼きか、広島カキか、はたまた紅葉まんじゅうか・・・。 しかし広島に単身赴任に来られた方は、某うどん店の直営店舗の多さに驚かされるに違いない。市内だけでも48店舗あるのだ。 ”うまい・早い・安い” をベースに手作りうどんと田舎風味のおむすびで、広く事業を展開する飲食産業である。カウンター 越しに給仕をしている配膳人は、ピンクのエプロンと和食帽、(あの和食の料理人がしている独特の帽子は何と言うのだろう。 普通の店は白色なのだが、この店はそれさへもピンクなのである。) 白い長靴のいでたちで、将棋の駒に見立てた食券を、カウ ンターに”パシリ” と置くと、給仕がそそくさとうどんを差し出すという、大和魂の意気込みを安売りしたシステムと、敷居が 高い割烹料理をコミカルにデフォルメしたその店構えが、広島のサラリーマンに大いに受けているのだ。しかしこれだけで驚いて はいけない。
主に男子が入る客と対面するカウンターとは別の、道路に面した精算レジには会計の女の子がいるのだが、これがまた凄まじくか わいいのだ。(おむすびは彼女達が用意をし、店の外からも買う事が出来る。) 信じられないかもしれないが、広島で一番かわい い女の子が集まっており、女子大の就職率がナンバー1、しかもその全てが超高学歴なのである。広島に単身赴任に訪れた方で初 めてこの店に来た者は、そのあまりのギャップに驚かされるのである。それこそ物笑いにでもなりそうなこの店に、なんでこんな かわいい子がいるのかと・・・。それを説明するには、この店の創業経緯をお話する必要があるだろう。
そもそもこの店を創業された一代目は、京都の高級和菓子に弟子入りされて長らく修行された後、独立されたものである。しかし 当時は戦前・戦後を挟んでの混乱期であり、高級和菓子だけでは到底生計が成り立とうはずも無い。それで夫婦共々大変な苦労を されたそうなのだ。そんな折、知人の口添えもあったのか、引き揚げ船で賑わう広島の呉に赴いて、高級和菓子のプライドを一切 合切(いっさいがっさい)捨て去って、真心を込めておはぎを造って出した処、戦地から戻った兵隊さんが、”俺が本当に欲しか ったのはこれなんだ。” と涙を流して食べたというのだ。それ以来、造っても造っても足りない日が何日も続いたという。結局こ れが今の店の前身となっているのだ。一見古くさいと思われるこの店が女子大生の心を掴んで離さないというのも、きっとこの純 粋な心の優しさが社風の中に息づいているからに違いない。
この古き良き日本の心を保ちつつ、近代化を図り大規模に事業展開したのが今の二代目である。(現在は株式会社形態となってい る。) 店の造りこそ田舎屋を模しているものの、その内実は48店舗全てに情報端末が張り巡らされており、無駄な食材は一切残 さない、徹底したコスト削減が図られている。もともと女の子は大卒なので、端末の操作は手慣れたものだ。しかもこの会社は完 全な男女平等となっており、賃金格差は一切ないし、店の企画・運営は、全て彼女達の手によるものである。この徹底した男女平 等の考え方は、今の二代目のポリシーでもある。
よく青春ドラマにある様な、将来を保証されたいいとこのボンボン連中の大学生が、クラスメートの異性と共に、合コンでしたり 顔をきめ込むお嬢様気取りの精神薄弱女を見ると、私は思わず○○○に○○(○○○)を○○○んで○○を○○○したくなるのだ が、( ※ 「平成の歩き方」 より抜粋) この店で働く彼女達は、そんな女とは全く違う女性である。広島でも一、二位を争う有 名女子大を卒業しているのだから、男性諸兄に甘えてすがって媚びを売れば、いくらでも大企業は採用するし、おいしい思いも出 来るというに、決して自分に甘える事のない、一本筋の通った素晴らしい女性が多いのである。心の内に秘める女性の強さと、溢 れる知識に美貌と優しさを兼ね備えたその愛くるしさに、広島を初めて訪れた者達は、驚愕せざるを得ないだろう。
大体店では男女ペアを組ませるのが普通である。つまり、夫婦力を合わせておはぎを造り、客をもてなすあの時の情景を再現しよ うとしているのだ。或いは若い男性バイトにおばさんという組み合わせもある。これは母子(おやこ)で仲良く働く古き良き日本 の姿を模したものであろう。しかし実際には、それがあまりうまくいっていないのだ。
これは特に若い男子に有りがちな事なのだが、黙ってふつーに仕事をしてれば良いものを、しつこく女の子にベタベタ話しかけて みたり、或いは逆に、自分になつかないと激しく攻撃したりするものだから、客が店に来なくなるのである。客が店に来なければ 経営は成り立たない。だからへんに媚(こ)び諂(へつら)う事で、敢えて失笑を買おうという、誤った方向へ流れていってしま うのだ。一般的に言って男と女では男の方が断然悪い。だから罰的な意味合いもあるのだろう、男の制服はおかしいし、カウンタ ーから出てくるな、という事にもなってしまう。客から笑われたりバカにされたりする内に、ひがみ根性からか、次第次第に女の 子の事を憎しみの眼差しで見つめる様になってしまうのだ。しかしよくよく考えてみると、これは逆恨みの何物でもない。女の子 は女の子で憎しみの眼差しで見られる事に対する憤(いきどお)りと、自分は何か悪い事をしているのではないかという言い様の ない罪悪感で、徐々に心に傷を負っていくのである。時給の賃金が安いので、バイトの男は長続きしないし、あまりいい男も入っ て来ない。
しかもこれには更に厄介な弊害が伴っている。これ見よがしに極端に媚び諂う方向へ走るものだから、逆に客からしてみれば、
”もし自分がこの店に入れば、自分は物凄く悪い人間だと人から思われるのではないだろうか・・・。”
という感情が芽生えて、かえって敬遠してしまうのだ。あなたにも経験があるはずだ。小さな横断歩道を赤信号で待つ時に、車が 全くいない時、思わず渡ってしまおうと思った事はないだろうか。実際、自分の周りに人がいて、しかもその大多数の人が待つな らば、自分も渡りはしないだろうが、誰か一人が渡り出すと、それに連られて自分も渡り出した事が・・・。
言わば、これと同じ状況が起こっているのである。客に化けた ”おとり役” がいるのだ。つまりスーツを着込んで客を装う本社 の者が、さもえらそーにカウンターの前にドカリと座り、”チィチィ” 急かす様に言ってみたり、馬鹿にした様にジロジロ睨み付 けたりしていると、今まで横目で見ていたからかい気分の他の客が、ここぞとばかりに我も我もと群がり集まって来るのである。 (この様なおとり役の事を、業界用語で ”お花持ち” と言うらしい。) 第一、常識的に考えてもみて欲しい。人が一生懸命造 ってくれているのに、 ”チィチィ” 言う人が普通、いるだろうか?
というわけで、今では客の大半がスネリーマンと化してしまっている。 (スネリーマンとは私が勝手に作った造語で、ドラエモン に出てくるスネ夫とサラリーマンを足して2で割ったものである。つまり、ジャイアンに媚びるスネ夫の様に、企業の威光をかさ に着て、後ろから人に威張り散らそうとする、会社にダニの様に寄生するサラリーマンの事である。) 実際、私が店番をしている 時も、店に来る客は大きく二つに分かれていた。時折、杖をついたおじいさんが、家族に連れられ手を引かれてやって来て、出さ れた桜餅を食べながら、 ”ありがとう。ありがとう。” と涙を流して喜ぶのだ。何か昔を思い出し、感極まるものがあったのだろ う。 しかし大半のお客は私をからかいにやって来たスネリーマンか、わけのわからないカップルである。
こうなると、もはや本来のこの店の意義を解する者など殆どおらず、男性社員はひねくれて、お互い足の引っ張り合いばかりをして いる。なかには悪い奴もいて、ちゃちな悪巧みを画策し、ある事ない事デタラメばかりを吹聴し、気に食わない女を蹴落とすべく四 方八方手を尽くすのだが、それら全てが ”おとり役” を通して上の者に筒抜けなのだ。で、結局悪事がばれて、余計女の子から軽 蔑されるのである。これが大卒女子が安心して働ける理由の一つにもなっているのだろう。 ”知らぬは男ばかりなり。” とは正に この事である。男性社員にはこの事は一切知らされていないのだが、三年以上も勤めている女子ともなると、誰が本社の囮(おとり) なのかという事は、ほぼ全員知ってるようだ。そんなこんなで一般的に男女の仲は悪いのである。 (これは特に小さい頃から子供中 心の家庭の中でわがまま一杯に育てられ、チヤホヤされる事を当然の事だと思い込んでいる永遠に大人に成りきれないマザコン育ち の甘ったれスネリーマンにとって、大変都合の良い事に違いない。なぜなら彼らは常に女性から煽(おだ)てられていなければ生き て行けないからである。)
しかし彼女達も女なのだ。一見、男に頼らず気丈に生きてるつもりでいても、やはり心の中では男に頼りすがって甘えてみたいし、 いい男だって欲しいのだ。そんな中、私がバイトで入ってきたものだから、さあ大変、キャーキャーキャーキャーもう大騒ぎになっ てしまったのである。私は自分で自分の事を素晴らしい男性であると言うつもりは一切ないが、彼女達が求める理想の男性像に私が 限りなく近かったに違いない。それはもう、大変なもてようだったのだ。
当時私が通っていた大学は、真に学問を追求しようとする者は殆どおらず、大卒という肩書きをコネにして、なんとか大企業のおこ ぼれを頂こうというのが見え見えの、実にいやしい連中ばかりだった。私が食堂で食事をとっている時に、男女数名で徒党を組み、 わざとイチャついて私を追い出そうとしてみたり、ゼミで仲間外れにされるなど、大学生活に幻滅し、とても辛く淋しい思いをして いた。
それがここへ来てあまりに激しくこい求められるものだから、私は何が何だかわけがわからなくなってしまった。大学ではあれほど 疎(うと)んじられていたこの私が、突然、こんなにも多くの女性に愛されるとは、一体どういう事だろう。 ”天国から地獄” な らぬ、 ”地獄から天国” である。甘い花園の中にいる様に、これほどまでにも美しくかわいい女性達に囲まれて、私はなにか頭が ボーッとして、のぼせてしまった。私はそれまで超マジメ人間で、今まで一度も女性と付き合った事がなかったのだ。
しかしそれにやっかみを感じたスネリーマンが、黙って見過ごすわけは無い。以後、これを契機として、私とスネリーマンとの壮絶 な戦いの火蓋が切って落とされる事になるのだが、その奮闘ぶりは後々”後編” にて詳しくお伝えする事にしよう。


ー ”後編” に続く・・・ ー


( ※ ついこの前、買い物中、置いていた荷物からふと目を離したそのスキに、カバンの外ポケットに入れておいた財布をものの見事に すられてしまいました。皆さんもスリには十分気を付けて下さい。)




● 諸例2
  某うどん店直営店舗群(後編)

私が入ったその店はオフィス街のど真ん中にあり、小さな間取りにも関わらず昼食の時間帯の時だけ爆発的な来客があるのだ。 特に近くには官公庁があり、決められた時間内に食事を取らなければならない職員は、わざわざ5〜6百メートル離れた別の 商店街まで足を運ばなければならないので、出来ればここで食事を済ませたいのだ。その為来客が集中する11時中頃から2 時半頃までを ”ピーク” と呼び、この店のカウンターに入った何人もの男性社員のプライドを粉々に打ち砕いて退職へと追 いやった、いわく付きの超有名店なのである。私はいきなりここのカウンターにまわされたのである。
実際にこの店を切り盛りしてるのは三人のパートのおばさん。開店から夕方4時までの二人と、4時から閉店までの一人。こ の三人は古くからチームを組んでいるらしく、お互い結構仲がいいのだ。ピークの時だけレジに若い女子社員、カウンターに は男子社員がヘルプに入る。ピークが過ぎれば女子は本社に戻って事務をするか、その他諸々の作業に入る。男子はと言うと ・・・・実はピークを過ぎた後はブラブラしているのだ。なぜかというと、小さな店の中で女性ばかりがいる中でウザッたい 男子が一人ゴロゴロしていると、若い女の子が嫌がるのだ。一応男は瞬発力と爆発力があるのでピークの調理は向いてるが、 後の整理や後片づけは几帳面な女の子の方が向いているのだ。だからピークを過ぎた後の男性は、ごく一部を除き屋根無しの 外へおっ放(ぽ)り出されるのである。(笑。)(でも一応、肩書きは ”部長” とか ”課長” なんだよ。)
男性社員が少ない事もあり、私がこの店に入るや否や、たちまち周りの女の子から主人公に奉(まつ)り上げられてしまった。 と言うのも、いくらカウンターを挟んでいるとは言え、脂ぎった顔の中年男性と面と向かって顔を向かい合わせるのを、女性 はみんな嫌がるのだ。特に若い女の子に言わせれば、あれをされるともう、身も心もズタズタになるそうである。(笑。) 私がピークを過ぎた後、閉店8時までカウンターにいるように言われたのも、パートのおばさんに信頼してもらったからだろ う。
なかでも一緒にカウンターで仕事をするおばさんにはとりわけ優しくされて、私はもう、メロメロになってしまった。しかし ”おばさん” ”おばさん” と侮(あなど)るなかれ。確かに年の頃は四・五十前後だが、スタイルはいいし、頭はよいし、 その上顔は抜群にかわいいし、それより何より全身から滲み出る女性ホルモンと溢れんばかりの母性愛に包み込まれたならば、 例えピチピチのかわい子ちゃんが二〜三人束になってかかって来ても、決して太刀打ち出来ないだろう。
この店はビジネス街にある事もあり、5時を過ぎた頃からパタリと人通りが途絶え始める。後は後半のパートのおばさんとボ チボチ後片付けに入るのだが、何者かわけの分からんこの私と彼女とを、いきなり組ませるのはまずいと思ったのだろう。最 初の頃は若い新人の女の子と一緒だった。私がチェックの人間がいる事に気が付いたのは、この時である。(前半で使った ” おとり” という言葉は、あまり適切な表現ではないかもしれない。) つまり女の子とベタベタ話しはしてないかとか、或い は逆にひどい事はしないだろうか調べる為に、明らかに本社のチェックの人間と思(おぼ)しき者が白々しく客を装って来る のである。この時色々テストがあった。注文のメニューと違うので作り直してくれと言われたり、或いはメニューにないトッ ピングを要求してみたり、私は研修のマニュアルで習った通りに対応した。それを知らないレジの女の子にチェックの者が来 ている旨も知らせておいた。暫くして店のレジに電話がかかって来て、何かヒソヒソ話しをしている。何かあったら直ぐに電 話を掛けるよう、あらかじめ女の子は言われていたのだろう。様子を伺(うかが)う意味も兼ね、尋ねて来たものと思われる。 女の子は女の子で、
「チェックの者が来てるので、気を付けろとか言ってましたよ。」
などと話していたのだろう。閉店の際には先輩の女の子がやって来て、全て見抜かれてる悔しさと、ミスをしなかった事に対す る落胆からか、なんか、投げやりな感じで締めの作業を手伝ってる様だった。(笑。) この様な事があった後、結局私がこの 店で働いても”OK”という許可が本社から出た様である。

6時を過ぎるとピタリと人が来なくなる。女の子が私を信頼してくれた事もあり、私は随分心静かに落ち着いた時間を過ごす事 が出来た。まるで傷ついた心が癒されていく様である。しかしよくよく考えてみると、うら若き男女がたった二人で一つ屋根の 下にいるというもの何か奇妙な話しではないか。仕事の同僚という枠を超え、私はずっと昔から仲の良い夫婦でままごとでもし ているような気分になって来た。得も言えぬ心地よさである。まるで夢でも見ているかの様な感覚だった。
しかしそれをスネリーマンが黙って見過ごすわけはない。しかも私が毎晩々ゞ、取っ替えひっ替え若く美しい女性達と甘い蜜月 を送るものだから、それが余計、彼らの怒りに油を注いでしまったのである。
本来ならばここはオフィス街であるはずなのに、どこで噂を聞きつけたのか、スネリーマンまで私の店に押しかけて、執拗に私 に攻撃を仕掛けて来るのである。それでなくても昼間の時間帯は忙しいというのに、わざわざその時を狙って大挙してやって来 るのだ。まるで私を蹴落とさんとばかりに。官公庁の職員の迷惑になる事くらい、どうして分からないのだろうか。おまけにテ レビ局まで私達の戦いを面白半分に茶化して囃(はや)し立てるものだから、(ヒロミっ! お前の事だっ!!) 何を勘違いしたのだろう、ブームに乗せられたバ カ供が、やたらめったら めかし込み、怒涛の如く私の店に押し寄せて来たのである。お陰で私は仲の良いパートのおばさんと喧 嘩をしなくてはならい事が度々あった。元々それがスネリーマンの狙いなのだ。バタバタバタバタしてる内、あれやこれやと手 間取ると、スーツを着込んだサラリーマンが私の目の前にドカリと座り、 ”チィチィ、チィチィ” 急かすのだ。或いはコンロ を囲むカウンターの一角に、一席ほど真横からキッチンを覗き込む事の出来る椅子があるのだが、またわけの分からんサラリー マンがそこへドカリと座り込み、無礼に覗き込みながら、 ”チィチィ、チィチィ” 急かすのだ。
「そんな奴、ぶん殴ってやりゃぁーいいじゃん。」
と思われる方もいるだろう。絶対、そんな事をしてはなりませぬぞ。そいつこそ正真正銘の本社のチェックの者なのだ。だから ひたすら我慢してやるしかないのである。
んなもんだから、古い伝統を毛嫌いする、反逆のヒーローを気取ったチーマーまでもが調子に乗って、身の程知らずにも私と対 決せんとばかりにニタニタニタニタにたつきながら、彼女と一緒に私の前にドカリと座り、 ”チィチィ、チィチィ” 急かすのだ。 彼らを真似 たつもりだろう。しかしそれにしても、彼らにはホトホト手を焼かされたものだった。ゴムの毛虫をどんぶりの中に入れてるし、 あいつは生意気だとか本社に電話は入れてるし、挙げ句の果てには店の前に停めていた私の自転車をこっそり盗んで捨てるのだ。 だから私は帰り際、わざわざ電車に乗って帰らなければならなかった。
しまいにはわけのわからんカップルや、どこかの塾に通ってるパープーみたいな中学生までもが数名で私の店にやって来て、生 意気げにもヘラヘラしながら私の前にドカリと座り、 ”チィチィ” 言ったり 横からジロジロ覗き込む有り様である。
貴様らぁ! 私が未来の社長と知っての狼藉かぁ!!!
休憩は500メートル程離れた、中継基地となる別の店舗の控え室でとる事になる。男は数名しかいないので、周りはほとんど 女の子。時間帯によっては男が私一人の時もある。こたつに入って女の子と一緒に食事をとるというのもなかなかいいものだ。 ピークの後の、しばしの安らぎと言うやつである。彼女達には本当に良くしてもらった。その中でもとりわけかわいい子がいて、 私と彼女とは結構、気が合ってしまった。音楽女子大に通ってるアルバイトだそうである。彼女とおこたの中に入っているだけ で、とても心がやすまる様だった。

そんな折、私にとってある不利な状況が起こってしまった。最初この店は三人のパートの女性がチームを組んでいるとお話した。 始めの一ヶ月は若い女の子と後片付けをしていたが、別の店にいたそのパートの方が戻って来られたのだ。おばさんと言えど、 その色気はいまだ健在である。が、この人がまた結構、クセのある人なのだ。確かに優しい。優しいし、かわいいし、ものすご くいい人。いい人なんだけど、うーん・・・。何と言ったらよいのだろう。よく演歌の歌詞に、

  ” 尽くしても 尽くしても 捨てられて、    
             それでも尽くしてしまうあなた・・・ ”

とかなんとか言う台詞(せりふ)が時々あるが、あれを地でいっている様な人なのだ。尽くす事に喜びを感じるタイプだし、かわ いくて優しいもんだから周りからチヤホヤされるんだけど、でも、結局、最後には一人になってしまう・・・。悪く言えば八方美 人なのだ。だからいつまで経っても満たされない、愛されたいのに愛されない。そんな女の思いの怨念が、体中から滲(にじ)み 出ているのである。詳しい身の上は知らないが、数え切れない男と女の地獄の修羅場を幾度と無く潜(くぐ)り抜けて来た生き様 が、それとなく私には分かるのである。おまけに仕事は出来るのに、彼女は何度も職を転々としている様なのだ。なぜかと言うと、 つまり、こう、何と言うか・・・、微妙に計算するんだな。と言うのも、優しい言葉をあれこれ掛けて特に機嫌のいい時は、人の 良いおじいさんを導き入れて暖かいムードを演出するし、逆にちょっとでも生意気な口の聞き方でもしようなら、ニヤみ走ったス ネリーマンを集中的にぶつけてくるし、まるであたかも魔術師の如く、自由自在に客の出入りを絶妙にコントロールするのである。 これがムショーに神経を逆撫(さかな)でするのだ。んなもんだから、結局同僚から嫌われてしまうのである。しかも彼女の凄い ところは、それを相手に絶対悟らせない事なのだ。(私を除いては。笑。) 彼女を嫌う者達に、どうして嫌いなのかと尋ねても、 それをうまく言葉に表せないのである。この事からも、彼女がいかに凄まじい地獄をかい潜って来たのかという事と、その心の奥 に秘められた、すえ恐ろしいまでの潜在的な能力を、うかがい知る事が出来るだろう。
彼女と顔を合わすなり、私はまるで子供の様に、ベタベタに可愛がられてしまった。気色悪いくらいに・・・。しかし私はこの手 のタイプの人とは関わりを持たない事にしているので、ま、適当にその場その場で調子を合わせ、付かず離れず距離を置こうと心 に決めた。
途中、別の男性が私の指導にやって来た。私はこの時、ちょっとした失敗をしてしまった。と言うのも、その男性は私の調理をチ ェックしに来たのだが、彼女と二人っきりになるという妬みの気持ちもあったのか、私が調理をしている間、その男は彼女にベタ ベタ話し掛けていた。彼女も必死でそれに応対していたが、私は彼女が年甲斐も無く男に健気(けなげ)に媚びる姿を見てる内、 ついついおかしくなってしまい、ついうっかりうつむき加減で笑ってしまったのである。彼女は彼女で自分が男に媚びる醜い女の 姿を、私の様な若い男に間近で見られて何か悔しく思ったのだろう、少し気に掛けてる様だった。そうこうしてる内、男は去って いった。
さて夜になり、二人で店を閉める際、彼女は自分のミスに気付いた様だ。千円札と間違えて、客に壱万円札を渡してしまったらし い。本来ならば、彼女と一緒にどこかに落ちてはいないかと、捜して心配するのが正道なのだろうが、その時私は昼のピークでと ても疲れていたし、かわいい子には少々目が肥えてしまっていた事もあり、
 「そりゃー、まずいっすよ。」
と、一言冷たく言い放ち、私はさっさと一人で帰ってしまった。が、これが後々彼女の逆鱗に触れる事になるのである。
自分は長年、誰にも頼らず苦労を重ねて生きて来たという女としてのプライドを、私の様な何も分かりはしない若造に傷つけられ て侮辱されたという事と、自分が今まで愛し尽くして裏切られ、冷たく突き放された男に対する憎しみが、私のとった行動とピタ リと重なり合ったものだから、さあ、それで彼女の腹が収まるわけはない。今までさんざん男に裏切られてきた憎しみが、凄まじ い怒りとなって大爆発したのである。
彼女の私に対する復讐は、翌日すぐに始まった。店のレジに立つと直ぐ、微笑みパワーを全開し、あっという間に店内をスネリー マンで満杯にしてしまった。その上いくら注文を片しても、次から次へとうじ虫の様に湧いて出て来るのである。ここの通りは夕 方以降、人はまばらであるはずなのに、いったいこの群集は、どこから湧いて出たのだろう?
 これがババァの底力というものか!
     これが女の怨念というものか!!
           恐るべし接客ババァ!!!
               恐るべし微笑みパワー!!!!
私と彼女との闘いは、すぐに辺りに広まった。今まで赤の他人であるはずの、見ず知らずのスネリーマンが、 ”私を潰す” とい う同じ思想の名の下に、一致協力団結し、お互い目くばせを交わし合い、私を休ませる事のない様に、かわるがわる私の店にやっ て来るのだ。おまけにチビで女々しいリーマン供が、閉店ギリギリ 7:59分 にやって来て、 ”やれ作り直せ” とか ”やり 直せ” とか、いつまでもしぶとく粘り続けるのである。
お陰で 8:30 には帰れるものを、後片付けが出来ないばかりに 11:00 ぐらいまで掛かってしまうのである。しかも時給 は 8:00 までしか出ないのだ。
ここまでやれば、私が彼女に観念し、 ”まいりました。許して下さい。全て私が悪いのです。” と頭をすぐに下げるだろうと、 彼女は思ったに違いない。しかし私を甘く見て貰っては困る。私をその辺にいるヤワな男と一緒にするのは間違いだ。帰り際、締 めの者は明日の朝、仕込みに来られるパートの方に、伝達事項をノートに書く事になってるのだが、私は仲の良いおばさん宛に、
 「明日のピークもまた一緒に頑張りましょう。」
などど書き置いて、さっさと帰った。
翌日の夕方の事である。私の目論見(もくろみ)通り、彼女はノートをコッソリ覗き見たのだろう。嫉妬と妬みで顔は鬼の面と化 し、さらに激しい攻撃を集中的に掛けて来た。のっけからエンジン全開フルパワー、きつい口調で私にオーダーをかけるのだ。
半ば狂喜乱舞のスネリーマンが、毎晩毎夜、怒涛の如く私の店に押しかけて、挙げ句の果てにはヤンキー供まで喜び勇んで駆け付 ける有り様なのだが、それにも増して、私は楽しくて楽しくてしょーがなかった。これほどまでに激しい攻撃を加えているにも関 わらず、私の顔が苦痛に歪んで行くどころか、益々不敵にほくそ笑んで行くものだから、彼女もヤケになっていたのだろう。この 様な経験は始めてだったに違いない。実際、これは演技でもなんでも無く、私はホントーに楽しくて楽しくてしょーがなかったの だ。なぜかって? 異変に気付いた本社の者が、入れ替わり立ち代わり何人も客を装って私の店に来ていたからである。
客の出入りが一息ついた頃、私はうらめしそうな顔をして、彼女の顔を見つめると、彼女はさも、そ知らぬ振りをして、勝ち誇った 様にうつむきながら経理の帳簿を付けている。私は言った。
 「○○さん。一言いわせて貰っていいですか。」
 彼女は答えた。
 「ええ、どうぞ。どうぞ。」
 「本社のチェックの人間が、何人も店に来ていたのに気付かなかったのですか?」
突然、彼女はハッとした。その時だった。どこからともなくレジに電話が掛かって来たのだ。すぐさま受話器を取るとすぐ、小声で ヒソヒソ話してる。恐らく本社の者から注意の連絡が入ったのだろう。 ”しまった!” と言わんばかりに彼女はごまかし笑いをし ている。私は思わず彼女に言ってやった。
 「○○さん。あなたは客の出入りの数を、微妙に調整してますね。」
 「あたし、そんな事してないもん。」
 「いや、絶対にしてる。オレには分かる。○○さんが会社を辞めさせられたのも、その為だ。○○さんが接客のプロである事は認 めよう。でも世の中はべつに接客の仕事だけあるわけじゃないんだ。オレは他にも家でやらなければならない事は山ほどあるし、明 日にはピークも控えてる。○○さんは一日4時間働けばそれで済むかもしれないが、自分は毎日9時間いなくちゃいけないんだ。オ レは8時で上がりたい。頼むから8時で上がらせてくれ。」
彼女は明らかに動揺している。そして私は最後にこう、付け加えてやったのだ。
 「そんな事ばっかやってっから、人から嫌われるんだ!!!」
その瞬間、彼女は整理していた食券を、思わず手から滑らせて、床にバラリとばらまいてしまった。私にわざと背を向けて、顔を隠 しながら拾ってる。何という慌てふためき振りだろう。私の言った一言が、相当ショックだったに違いない。
翌日彼女は来なかった。病気で1〜2週間休むという。これが原因で私は別の大きな店に移された。
そこにはバイトの若い女の子が沢山いたのだが、落ち込む私とは裏腹に、なんらそ知らぬ振りをして、キャッキャ、キャッキャとは しゃいでる。(まあ、私も女の子と一緒になれたので、嬉しかった面もある。) ここでも色々あるのだが、面倒なのでもう書かな い。簡潔に言えば、私が妬みを買った事と、リーダーの座を奪われるのではないかと勘違いした先輩に、いじめに遭った事である。 私はただ、ソフトの開発をしている間、バイトで生計を立てたかっただけなのに・・・。もう疲れていたので、結局、店を辞める事 にした。
しかし本社の人も意地悪なものだ。私達二人のトラブルを知りながら、ここまで傷つけ合うまでわざと見て見ぬ振りをするのだから ・・・。と言うより寧ろ、女性社員が苦しむ方向に苦しむ方向に持って行こうとするふしがある。現二代目社長よ。この記事を読ん で大いに反省して頂きたい。さもないと、従業員から社長失格の烙印を押されますぞ。あなただって最初、野村證券の社員だったの を、途中から入って来た人なのだから・・・。
しかしここで一つ気懸かりなのは、私がこの記事を書いた事により、店の売り上げが落ちるのではないか、という事である。最近ど うも経営状態が芳(かんば)しくないみたいなのだ。女性従業員の各々方よ。今が踏ん張り時である。頑張って頂きたい。私が応援 しております。店は男性客以外、絶対に入ってはいけないというわけではないので、これをお読みになられた女性の方や、家族連れ の方々も、広島を訪れの際には、ぜひ一度、立ち寄ってみて下さい。






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